3.ストラテジー

【SC試験・午前1】技術戦略マネジメントを攻略!MOT・技術のSカーブ・キャズムの頻出パターン完全ガイド

2026年8月30日

技術戦略マネジメントは、午前1(科目A-1)の中で最も「出題数が少ないのに、毎回のように顔を出す」分野です。MOT、技術のSカーブ、キャズム、デファクトスタンダード。どれも1問ぶんの知識としては軽いのに、まともに参考書を読むと経営学の教科書に迷い込んで時間だけが溶けます。

この分野の正しい向き合い方は、はっきりしています。覚える用語を20語ほどに絞り、それぞれ「何と何を分ける言葉か」だけを持つことです。計算はまったく出ません。深い理解も要りません。本記事では、その20語を混同ペアの形で整理し、投じる時間を最小化します。

なお、SC試験は2026年度からCBT方式へ移行し、試験区分の名称も変更されます。午前Ⅰが科目A-1、午前Ⅱが科目A-2、午後が科目Bという呼び方になります。これはIPAの試験要綱Ver.5.6(2026年10月の試験から適用)に反映済みで、出題範囲・出題数・試験時間に変更はありません。制度変更の詳細は「【2026年度版】情報処理安全確保支援士試験のCBT化で何が変わる?科目A/科目Bの新名称と対策の変え方」で解説しています。本記事では検索でたどり着きやすい「午前1」の呼称を主軸にしつつ、新名称を併記して進めます。

筆者はインフラエンジニアとして1999年から2005年ごろまでサーバーやルーターの設定・設計を担当し、その後、事業会社のCIOとしてIT投資の判断を行う立場になりました。技術戦略という言葉は大企業の研究所の話に聞こえますが、実態は「どの技術に、いつ、いくら賭けるか」という判断の積み重ねです。CIOになってからも、無線LANを入れるか有線のままでいくかを検討したことがあります。結局は有線を選びました。理由は速度と、業務用機器の価格です。当時の無線は今ほど速度が出ず、市販ルーターはセキュリティと処理速度の両面で不安があり、業務用となればL3ルータと比べてもそれなりの価格でした。技術のSカーブや技術ポートフォリオという用語は、まさにこの種の判断を言語化したものです。そう捉えると、暗記対象が急に手触りのあるものに変わります。

本シリーズの全体戦略は導入記事「元CIOが実践するスタミナ温存術!「コスパ極振り」最短エスケープルート・完全版ロードマップ」に、前回の経営戦略は「経営戦略を攻略!SWOT分析・PPM・バランススコアカードの頻出パターン完全ガイド」にまとめています。本記事は第12回、ストラテジ系(第3部)の2本目です。

この記事で学べること

  • 出題数が少ない技術戦略で「どこまで覚えて、どこから捨てるか」の線引き
  • MOT(技術経営)の考え方と、技術開発戦略の立案から技術ロードマップまでの流れ
  • プロダクトイノベーションとプロセスイノベーションの違い
  • 持続的イノベーションと破壊的イノベーション、イノベーションのジレンマが起きる理由
  • 技術のSカーブが示す「乗り換えの判断」と、その読み違え方
  • イノベータ理論の5類型とキャズムの位置関係
  • 魔の川・死の谷・ダーウィンの海という3つの関門の順序
  • オープンイノベーション、産学官連携、リーンスタートアップ、デザイン思考、ハッカソンの位置づけ
  • APIエコノミー、ビジネスモデルキャンバス、デファクトスタンダードの頻出定義
  • 午前1で狙われる混同ペアの総まとめ

午前1の技術戦略は投資額を決めてから覚える

まず投資判断から入ります。この分野は「頑張らないこと」がそのまま正解になる、珍しい領域です。

出題数は少ないが、出れば取りやすい1問

午前1は30問出題され、100点満点中60点以上で通過します。18問取れれば合格ラインです。分野ごとの出題数はIPAが公表していませんが、過去問の傾向を見る限り、ストラテジ系は8問前後で、そのうち技術戦略マネジメントに割かれるのは1問前後というのが実感です。

出題数だけ見れば小さな領域です。ところが、この1問は極めて取りやすい部類に入ります。理由は2つあります。1つは、問われ方が「〜の説明はどれか」という用語の定義確認にほぼ限られること。もう1つは、出てくる用語の顔ぶれがほとんど変わらないことです。キャズム、デファクトスタンダード、MOT、死の谷。この4語だけでも、かなりの確率でどれかに当たります。

つまりこの分野は、「投じる時間は最小、拾える確率は高い」という費用対効果の良いポジションにあります。テクノロジ系の学習で頭が疲れた日に、寝る前の15分で回すのに向いています。

取る問題はイノベーションの類型・Sカーブ・キャズム・3つの関門

優先して押さえるのは次の4つです。

1つ目はイノベーションの類型です。 プロダクトイノベーションとプロセスイノベーション、持続的イノベーションと破壊的イノベーション、そしてイノベーションのジレンマ。組み合わせは4通りしかないので、対比で覚えれば数分で終わります。

2つ目は技術のSカーブです。 技術の成熟と、次世代技術への乗り換えのタイミングを示す曲線です。グラフの形とセットで覚えます。

3つ目はキャズムです。 イノベータ理論の5類型のうち、どこに深い溝があるかを問う形が定番です。前回の経営戦略でプロダクトライフサイクルとあわせて触れた内容の延長線上にあります。

4つ目は魔の川・死の谷・ダーウィンの海です。 研究から産業化までの3つの関門で、順序を入れ替えた選択肢が定番の引っかけになります。

捨てる問題は技術予測手法の細部と特許実務

逆に、時間をかけない領域も決めます。技術予測手法の各方式の詳細、研究開発費の会計処理、個別の標準化団体の組織構造、特許出願の実務手続などは、覚える量に対して出題頻度が見合いません。デルファイ法のように名前と一行の説明だけ持っておけば足りるものは、その一行だけで止めます。

特許や知的財産権の法的な扱い(職務発明、著作権との違い、ライセンス契約など)は、シラバス上は法務の中分類に属します。本シリーズでは第15回の法務でまとめて扱いますので、本記事では技術戦略の道具としての特許戦略にとどめます。範囲の切り分けを最初に決めておくことが、この分野で時間を溶かさない最大のコツです。

用語は「対になる相手」とセットで覚える

新卒エンジニアにインフラを教えていた頃、用語の暗記でつまずく人には共通点がありました。1語ずつ孤立して覚えようとするのです。技術戦略の用語はほぼすべてが対になっているので、単独で覚えると記憶の取っかかりがありません。

プロダクトの相手はプロセス、持続的の相手は破壊的、デファクトの相手はデジュリ、魔の川の次は死の谷。この「相手」を必ずセットにするだけで、覚える負荷は半分になり、しかも試験で問われる引っかけがそのまま「相手の説明」であることに気づけます。選択肢を読んだ瞬間に「これは隣の用語の説明だ」と分かる状態が、この分野のゴールです。

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MOTと技術開発戦略:技術を経営の言葉に変える

ここからは頻出用語を順に整理します。まずは全体を包む枠組みであるMOTからです。

MOTは技術を事業価値に結びつける経営

MOT(Management of Technology:技術経営)は、技術を経営資源として捉え、技術開発への投資を事業の価値創出に結びつけていく経営の考え方です。技術そのものを高めることが目的ではなく、技術によって事業を伸ばすことが目的である、という点が定義の核心になります。

出題では「技術力の向上そのものを目的とする」という説明が誤りの選択肢として並びます。技術者の視点だと違和感が薄いぶん、うっかり選びやすい引っかけです。MOTの主語は経営であり、技術は手段だと押さえてください。

MOTが必要とされる背景も、あわせて理解しておくと迷いません。技術が高度化・複雑化し、開発費が巨額になる一方で、製品のライフサイクルは短くなりました。優れた技術を持っていても、投資回収の前に市場が次へ移ってしまう。そのため「どの技術に、どのタイミングで、いくら投じるか」を経営判断として扱う必要が生まれた、という文脈です。

技術開発戦略の立案は環境分析から始まる

技術開発戦略の立案は、おおむね次の流れで進みます。試験では手順そのものより、各段階に出てくる用語が問われます。

  1. 技術動向・製品動向・市場動向の調査:自社を取り巻く外部環境を把握する
  2. 自社が保有する技術の評価:どの技術が強く、どこに穴があるかを棚卸しする
  3. 技術獲得手段の選択:自社開発、他社との共同開発、技術供与を受ける、企業買収などから選ぶ
  4. 技術開発計画(技術ロードマップ)への落とし込み:時間軸を入れて実行計画にする

技術獲得の選択肢が複数ある点は覚えておく価値があります。「技術は自社で開発するものだけではない」という発想が、後で出てくるオープンイノベーションにつながります。

技術ロードマップは時間軸に技術と製品を並べる

技術ロードマップは、横軸に時間、縦軸に技術・製品・市場などの階層を取り、いつどの技術を確立し、それをどの製品に載せ、どの市場へ出すかを一枚で示した計画表です。技術と製品と市場の対応が時間軸上で見えるところに価値があります。

似た言葉に製品ロードマップ(製品応用ロードマップ)があります。獲得した技術を、どの製品群へ展開していくかに焦点を当てた表現です。試験でどちらが出ても、「時間軸を持つ計画表」という共通点で判断できます。

技術予測の手法としてはデルファイ法が問われます。多数の専門家にアンケートを繰り返し行い、他の回答者の意見を匿名でフィードバックしながら意見を収束させていく手法です。声の大きい人に引きずられないよう匿名性を保つ点が特徴で、リスクアセスメントの文脈でも登場するので、SC試験では一石二鳥の用語です。

技術ポートフォリオと特許戦略の位置づけ

技術ポートフォリオは、自社が保有する技術を「技術水準」と「技術の重要度(将来性)」といった2軸のマトリックスに配置し、どの技術に資源を集中し、どの技術から撤退するかを判断する枠組みです。前回扱ったPPMの技術版だと捉えれば、構造はそのまま理解できます。

特許戦略は、自社の技術を特許で保護して競合の参入を防ぐ「守り」と、他社にライセンス供与して収益を得る、あるいは規格の普及のためにあえて開放する「攻め」の両面を持ちます。技術戦略の文脈では、特許は法的な権利であると同時に、市場での立ち位置を作る道具として扱われます。

大学の研究成果を企業へ橋渡しする組織がTLO(Technology Licensing Organization:技術移転機関)です。産学連携の用語としてまとめて出題されることがあります。

イノベーションの類型は4通りしかない

ここが本記事の中心です。イノベーション関連の用語は、2つの軸で4通りに整理できます。

プロダクトとプロセスは「何を新しくするか」で分ける

プロダクトイノベーションは、これまでにない新しい製品やサービスそのものを生み出すことです。プロセスイノベーションは、製品を生み出す工程や業務プロセスを革新し、生産性・品質・コストを改善することです。

分ける軸は「作るモノが新しいのか、作り方が新しいのか」です。新素材を使った新型製品の投入はプロダクト、製造ラインの自動化による大幅な原価低減はプロセス。IT分野で言えば、新しいサービスの立ち上げがプロダクト、CI/CDの導入による開発リードタイム短縮がプロセスにあたります。

引っかけの定番は、「生産工程を効率化して原価を下げた」という事例をプロダクトイノベーションと言わせる形です。工程が対象ならプロセス、と機械的に判定してください。

持続的と破壊的は「既存顧客が喜ぶか」で分ける

持続的イノベーションは、既存製品の性能を、既存の主要顧客が評価する軸に沿って向上させていく改良です。企業の通常の改善活動の延長線上にあります。

破壊的イノベーションは、当初は既存製品より性能が低く、既存の主要顧客には評価されないものの、簡便さ・低価格・小型といった別の価値軸を持ち、やがて性能を高めて既存市場を侵食していくものを指します。

ここでの最重要ポイントは、「破壊的イノベーションは、登場時点では性能が低い」ということです。「既存製品より高性能な技術で市場を一変させる」という説明は、破壊的ではなく持続的の極端な形にすぎません。この取り違えが、出題で最も狙われます。

縦軸を性能、横軸を時間とした折れ線グラフ。既存技術(持続的イノベーション)の曲線は最初から主要顧客の要求水準を上回って伸び続けるのに対し、破壊的技術(破壊的イノベーション)の曲線は当初は要求水準を下回った状態から始まり、後半で要求水準を上回り既存技術に迫っていく様子を示す図

イノベーションのジレンマは優良企業ほど陥る

イノベーションのジレンマは、優良企業が既存顧客の要求に誠実に応え、収益性の高い持続的イノベーションに資源を集中した結果、破壊的イノベーションへの対応が遅れ、市場での地位を失う現象です。

重要なのは、原因が「経営の怠慢ではなく、合理的な判断の積み重ね」だという点です。既存の大口顧客は当初、性能の低い新技術を求めません。利益率も低く、市場も小さい。だから経営としては投資しない判断が正しく見える。その正しさの積み重ねが、結果として置き去りにされる原因になります。

「顧客の声を聞かなかったから失敗する」という説明が選択肢に並んだら、それは逆です。顧客の声を聞いたからこそ起きる、という逆説がこの用語の核心です。

セキュリティの現場でも似た構図は珍しくありません。既存の仕組みを磨き続ける判断は、その時点では常に合理的に見えます。筆者がCIOだった当時、WAFの導入は高価かつ運用のハードルが高いと判断して見送り、Webサーバー側のアクセス制御設定を工夫して泥臭く守る道を選びました。当時の投資判断としては筋が通っていたと思いますが、もし導入できていれば、誤検知への対処やシグネチャのチューニングといった運用の型を、組織として早く手に入れられたはずです。合理的な見送りが、能力の獲得を遅らせることがある。ジレンマという言葉の重さは、そこにあります。

オープンイノベーションと産学官連携

オープンイノベーションは、自社内の研究開発だけに閉じず、他社・大学・研究機関など外部の技術やアイデアを積極的に取り込み、また自社の技術を外部に提供することで、革新を加速させる考え方です。対になるのは、すべて自前でやるクローズドイノベーションです。

分ける軸は「知識が組織の壁を越えるか」です。「外部に開発を委託してコストを下げること」という説明は、単なるアウトソーシングであってオープンイノベーションの定義ではありません。ここも定番の引っかけです。

関連する用語をまとめます。

  • 産学官連携:企業・大学・公的機関が連携して研究開発や事業化を進める取り組み
  • TLO:大学の研究成果を特許化し、企業へ技術移転する機関
  • コンカレントエンジニアリング:設計・製造・調達などの工程を並行して進め、開発期間を短縮する手法
  • アライアンス(技術提携):資本関係を伴わない形も含む、技術面での協力関係

コンカレントエンジニアリングは「並行」がキーワードです。工程を順番に行うのではなく重ねて進めることで期間を縮める、という点だけ押さえます。

普及の壁:Sカーブ、キャズム、3つの関門

技術戦略で最も図として覚えやすく、出題も安定しているのがこの3つです。

技術のSカーブは乗り換えのタイミングを示す

技術のSカーブは、横軸に投入した資源や時間、縦軸に技術の性能を取ったとき、性能の伸び方がS字(緩やか→急激→再び緩やか)を描くという経験則です。

段階は3つです。初期は試行錯誤が続き、資源を投じても性能はなかなか伸びません。やがて技術が確立すると、投入した資源に対して性能が急激に伸びます。そして成熟期に入ると、いくら資源を投じても性能の伸びが頭打ちになります。

出題の核心は、この曲線が示す実務的な含意です。「成熟期に入った技術に投資を続けても、得られる性能向上は小さい」。だから、既存技術が成熟する前に次世代技術のSカーブへ乗り換える判断が必要になります。乗り換え期には、新技術の性能が旧技術をまだ下回っている時期があり、ここで踏み切れるかどうかが技術戦略の勝負どころです。破壊的イノベーションの話と地続きだと分かると、記憶が一気に固まります。

引っかけは「Sカーブは製品の売上の推移を表す」という説明です。売上の推移を4段階で表すのはプロダクトライフサイクルであり、Sカーブが表すのは技術の性能です。何を縦軸に取るかで区別してください。

縦軸を性能、横軸を投入資源・時間とした折れ線グラフ。旧技術のS字曲線が成熟して横ばいの頭打ちになった後で、新技術のS字曲線が下から立ち上がって旧技術を追い抜く様子と、両曲線が交差する少し手前に「乗り換えの判断点」を示す縦の点線が描かれた図

イノベータ理論の5類型とキャズムの位置

イノベータ理論は、新製品や新技術の採用者を、採用の早い順に5つに分類する考え方です。

  • イノベータ(革新者):新しさ自体に価値を感じ、真っ先に採用する層
  • アーリーアダプタ(初期採用者):価値を見極めて早期に採用し、他者へ影響を与える。オピニオンリーダと呼ばれる
  • アーリーマジョリティ(前期追随者):慎重だが平均より早く採用する層。ブリッジピープルとも呼ばれる
  • レイトマジョリティ(後期追随者):周囲の普及を見てから採用する層
  • ラガード(遅滞者):最後まで採用に消極的な層

キャズム(Chasm:深い溝)は、アーリーアダプタとアーリーマジョリティの間にある大きな断絶を指します。ここを越えられるかどうかが、市場に本格的に普及するかどうかの分岐点になります。

なぜ溝ができるのか。アーリーアダプタは新しい価値そのものに投資できますが、アーリーマジョリティが求めるのは「他社での実績」「安心して使える完成度」「導入後のサポート」です。求めるものが質的に違うため、同じ売り方では越えられません。

出題では、溝の位置をずらした選択肢が並びます。「キャズムはイノベータとアーリーアダプタの間」という選択肢は誤りです。溝は2番目と3番目の間、と数字で覚えるのが確実です。

イノベータ理論の5類型を左からイノベータ、アーリーアダプタ、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードの順に釣鐘型の棒グラフで並べ、アーリーアダプタとアーリーマジョリティの間に深い溝(キャズム)を描いた図

魔の川・死の谷・ダーウィンの海は順序で覚える

研究成果が産業として自立するまでには、3つの関門があるとされます。順序が命なので、段階とセットで覚えます。

  • 魔の川(Devil River):研究から開発へ移る段階の関門。研究成果が製品開発のテーマとして採り上げられない壁
  • 死の谷(Valley of Death):開発から事業化へ移る段階の関門。試作はできたが、量産化・資金調達・体制整備ができず製品として世に出ない壁
  • ダーウィンの海(Darwinian Sea):事業化から産業化へ移る段階の関門。市場に出したものの、競合や既存製品との生存競争に勝てず事業として定着しない壁

流れは「研究→開発→事業化→産業化」で、その継ぎ目ごとに魔の川、死の谷、ダーウィンの海が並びます。ダーウィンの海だけ、越えるべき相手が「競争」である点が特徴です。名前の由来が自然淘汰なので、そこで結びつけると混乱しません。

出題では、死の谷とダーウィンの海の入れ替えが定番です。「市場投入後の競争」ならダーウィンの海「事業化にたどり着けない」なら死の谷と切り分けてください。

研究・開発・事業化・産業化の4段階を左から順に並べた図。研究と開発の間に魔の川、開発と事業化の間に死の谷、事業化と産業化の間にダーウィンの海という3つの関門を配置し、それぞれの壁の内容を短い日本語で添えた図

事業化の手法と標準化:デファクトスタンダードまで

最後に、事業化を進めるための手法と、市場での標準をめぐる用語を押さえます。ここは定義を一行ずつ持てば十分です。

リーンスタートアップとPoCは「小さく試す」思想

リーンスタートアップは、実用最小限の製品(MVP:Minimum Viable Product)を短期間で作って市場に出し、顧客の反応を測定して学習し、方向転換(ピボット)するか継続するかを判断するサイクルを高速に回す事業立ち上げの手法です。「構築→計測→学習」のループとして説明されます。

PoC(Proof of Concept:概念実証)は、新しい技術やアイデアが実現可能かどうかを、小規模な試作や実験で検証することです。本格的な投資の前に技術的な実現性を確かめる段階を指します。

両者の違いは目的です。「PoCは技術的に作れるかの検証、リーンスタートアップは市場に受け入れられるかの検証」。この一行で切り分けられます。

デザイン思考・ペルソナ・ハッカソン

デザイン思考は、利用者の観察や共感から課題を発見し、試作と検証を繰り返しながら解決策を生み出す発想法です。技術的な実現可能性から出発するのではなく、人間中心の視点から出発する点が定義の核心です。

ペルソナ法は、想定利用者を年齢・職業・行動特性まで具体的に作り込んだ架空の人物像として設定し、その人物の視点で製品やサービスを検討する手法です。抽象的な「利用者」ではなく、一人の具体的な人物として扱うところに意味があります。

ハッカソンは、ハックとマラソンを組み合わせた造語で、技術者やデザイナーが短期間に集中して開発を行い、成果を競うイベントです。アイデアソンはアイデア出しに焦点を当てた同種のイベントで、ハッカソンの前段に置かれることがあります。

これらはまとめて「新しい価値を生む場や手法」として出題されるので、名前と一行の説明の対応さえ持っておけば取り切れます。

APIエコノミーとビジネスモデルキャンバス

APIエコノミーは、企業が自社のサービス機能をAPI(Application Programming Interface)として外部に公開し、他社がそれを組み合わせて新たなサービスを生み出すことで、企業や業種を越えた経済圏が形成される状態を指します。金融機関が口座情報の参照APIを公開し、家計簿サービスがそれを利用する形が典型例です。

SC試験の観点では、API公開は攻撃面の拡大でもあります。認証・認可の設計、レート制限、公開範囲の管理といった論点は午後で頻出します。ストラテジ系の用語がそのまま午後の題材になる、分かりやすい例です。

ビジネスモデルキャンバスは、事業の構造を9つの構成要素(顧客セグメント、価値提案、チャネル、顧客との関係、収益の流れ、主要リソース、主要活動、主要パートナー、コスト構造)で1枚に整理するフレームワークです。9要素をすべて暗記する必要はなく、「事業モデルを一枚で可視化する道具」という輪郭で十分です。

デファクトスタンダードとデジュリスタンダード

標準の種類は2つの対比で覚えます。

  • デファクトスタンダード(事実上の標準):公的な標準化機関の認定ではなく、市場での競争を通じて広く使われるようになった結果、標準的な地位を得たもの
  • デジュリスタンダード(公的標準):ISO、IEC、ITU、JISといった標準化機関が正式な手続きを経て制定した標準。IPAのシラバスではデジュレスタンダードと表記されており、「デジュール」「デジュレ」「デジュリ」はいずれも同じ用語(de jure=法律上の)のカナ表記の揺れです

中間的な位置づけとして、特定分野の企業が集まって規格を策定するフォーラム標準(コンソーシアム標準)もあります。

出題の核心は成立の経路です。「デファクトは市場が決めた標準、デジュリは機関が決めた標準」。デファクトスタンダードの説明として「国際標準化機関が定めた規格」が並んだら誤りです。

標準化はセキュリティ分野とも直結します。ISO/IEC 27001のような公的標準もあれば、事実上の標準として広く使われているプロトコルもあります。標準に合わせることは相互接続性を得ることであり、同時に「その標準に脆弱性が見つかったときの影響範囲が広い」ということでもあります。この視点を持っておくと、午後で暗号アルゴリズムの移行が題材になったときにも話がつながります。

午前1で狙われる混同ペア総まとめ

この分野の得点源は、対になる用語の識別です。誤りの形と正しい形を対にして整理します。

誤りの表現(選択肢に出る形)正しい表現・考え方
MOTは技術力の向上そのものを目的とする経営目的は事業価値の創出。技術は手段
生産工程の効率化はプロダクトイノベーション工程が対象ならプロセスイノベーション
破壊的イノベーションは既存製品より高性能な技術で市場を変える登場時は性能が低い。別の価値軸で普及し後から侵食する
イノベーションのジレンマは顧客の声を聞かなかった企業に起きる逆。既存顧客の要求に応え続けた結果として起きる
オープンイノベーションは開発を外部に委託してコストを下げることそれは単なるアウトソーシング。外部の技術・知識を取り込み、自社の技術も提供すること
技術のSカーブは製品の売上の推移を表す売上の推移はプロダクトライフサイクル。Sカーブの縦軸は技術の性能
キャズムはイノベータとアーリーアダプタの間の溝溝はアーリーアダプタとアーリーマジョリティの間
オピニオンリーダはイノベータを指す指すのはアーリーアダプタ
死の谷は市場投入後の競争に敗れる関門それはダーウィンの海。死の谷は開発から事業化の関門
魔の川は事業化から産業化への関門魔の川は研究から開発への関門。最初の壁
デファクトスタンダードは国際標準化機関が定めた規格それはデジュリスタンダード。デファクトは市場で事実上の標準になったもの
PoCは市場に受け入れられるかを検証することPoCは技術的な実現可能性の検証。市場検証はリーンスタートアップの発想
デザイン思考は技術的な実現可能性から発想する人間中心の発想。利用者の観察と共感から課題を見つける
コンカレントエンジニアリングは工程を順番に進めて品質を高める工程を並行して進め、開発期間を短縮する
デルファイ法は少数の専門家が対面で議論して結論を出す匿名のアンケートを繰り返し、意見を収束させる
APIエコノミーは社内システムを統合して効率化すること自社機能を外部に公開し、企業を越えた経済圏をつくること

この表は、そのまま選択肢の切り捨て基準として使えます。技術戦略の問題を見たら、まず「これは対になるどちらの用語の説明か」を疑うのが最短経路です。

SC試験での出題パターンと対策

最後に、この分野がSC試験の中でどう出るかを整理します。

午前1で繰り返される2つの型

型1:用語と説明文の対応を問う問題。 「キャズムの説明はどれか」「デファクトスタンダードに該当するものはどれか」という、最も素直な形です。選択肢には必ず対になる用語の説明が混ざります。混同ペアの表を持っていれば即答できます。

型2:事例から用語を選ぶ問題。 「試作品は完成したが量産の資金と体制が確保できず製品化に至らない。この状況を表す用語はどれか」といった形で、状況の描写から用語を当てさせます。段階(研究・開発・事業化・産業化)や、性能の高低といったキーワードを事例文から拾えば絞り込めます。

この分野では計算問題は出ません。仮に見たことのない用語が出た場合は、消去法で残ったものを選んで先へ進む判断で構いません。1問のために時間を使うより、テクノロジ系の見直しに回すほうが得点効率は高くなります。

午前2・午後との接続

技術戦略の用語は、SC試験本体でも顔を出します。

新技術の採用判断として現れます。 ゼロトラスト、パスキーによる認証、耐量子暗号への移行。いずれも「既存の仕組みが成熟し、次の技術へ乗り換える」というSカーブの構図そのものです。暗号アルゴリズムの移行については「耐量子暗号(PQC)とは?NIST標準化ML-KEM/ML-DSAとSC試験で問われる暗号移行の考え方」で扱っています。

標準化はセキュリティ技術の前提になります。 暗号アルゴリズム、認証プロトコル、脆弱性情報の記述形式。どれも標準があるからこそ相互に接続でき、同時に影響範囲も広くなります。デジュリとデファクトの区別は、この理解の入口です。

API公開は攻撃面の拡大として問われます。 APIエコノミーの裏側にあるのは、外部に開いたインタフェースの認証・認可設計です。午後では、公開範囲の設定ミスや認可の不備が題材になります。

経営への説明にそのまま使えます。 前回の経営戦略で扱ったBSCやKPIと同じく、技術戦略の言葉は「なぜ今この投資が必要か」を経営層に伝えるための語彙です。試験のための暗記が、そのまま提案の道具になります。

【演習】技術戦略マネジメントの頻出パターン理解度チェック(全10問)

午前1の技術戦略マネジメントは、用語と説明文の対応、および事例からの用語選択が出題の中心です。定番の引っかけは、破壊的イノベーションを「高性能な技術」と説明するもの、キャズムの位置をイノベータとアーリーアダプタの間にずらすもの、死の谷とダーウィンの海の入れ替え、そしてデファクトスタンダードを標準化機関が定めた規格と説明するものです。以下の練習問題で本記事の理解度を確認してみましょう。

【練習問題】午前1・技術戦略マネジメント(全10問)

まとめ:技術戦略は「乗り換えの判断」を言語化した分野

午前1の技術戦略マネジメントは、覚える量が最も少ない分野の一つです。対になる用語をペアで持ち、Sカーブとキャズムと3つの関門を図として頭に入れる。それだけで、出題の大半に手が届きます。深追いせず、寝る前の短時間で回す運用が最も合理的です。

同時に、この分野は現場の判断そのものを言葉にしたものでもあります。既存技術を磨き続けるか、性能がまだ劣る新技術に賭けるか。成熟した仕組みへの追加投資が、どこから先は伸びなくなるのか。CIO時代に無線LANを見送って有線を選んだ判断の背景にも、速度とコストという当時のSカーブの現実がありました。技術者が「新しいから入れたい」と言っても通らない場面で、Sカーブや技術ポートフォリオという言葉があると、話が前に進むことがあります。

新卒エンジニアに教えていて感じたのは、技術の良し悪しを語れる人は多い一方で、「いつ乗り換えるか」を語れる人は少ないということです。試験のために覚える20語は、その判断を言葉にするための最小の語彙でもあります。1問のための暗記だと割り切って構いませんが、後で使う語彙が手に入ると思えば、費やす15分の価値は上がります。

次回、第13回はシステム戦略とシステム企画を扱います。エンタープライズアーキテクチャ、業務プロセスの改善(BPRとBPM)、共通フレーム、調達の流れ(RFIとRFP)など、開発の手前にある「決め方」の領域を整理します。

本記事は情報処理安全確保支援士(SC)試験対策を目的として作成しています。

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Kenta Banno

元CIOの窓際サラリーマン(50代)。プライム上場企業の片隅で、情報処理安全確保支援士の合格を目指して奮闘中! 現在はAI(Gemini/Claude)を「壁打ち相手」として徹底活用し、日々の学習の備忘録とアウトプットを兼ねて記事を投稿しています。同じ資格を目指す初学者の参考になれば嬉しいです。

-3.ストラテジー