2.マネジメント

【SC試験・午前1】プロジェクトマネジメントを攻略!EVMとアローダイアグラムの計算パターン完全ガイド

2026年8月28日

「進捗率は80%と報告されているのに、なぜ予算はすでに使い切っているのか」

午前1(科目A-1)のプロジェクトマネジメントは、この問いに数字で答える技術を問う分野です。出題される計算はEVM(Earned Value Management)アローダイアグラムの2パターンにほぼ集約され、しかもどちらも公式と手順が完全に固定されています。計算問題と聞くだけで身構えてしまう人が多い領域ですが、実際にはテクノロジ系の計算より圧倒的に単純です。引き算と割り算しか使いません。

なお、SC試験は2026年度からCBT方式へ移行し、試験区分の名称も変更されます。午前Ⅰが科目A-1、午前Ⅱが科目A-2、午後が科目Bという呼び方になります。これはIPAの試験要綱Ver.5.6(2026年10月の試験から適用)に反映済みで、出題範囲・出題数・試験時間に変更はありません。制度変更の詳細は「【2026年度版】情報処理安全確保支援士試験のCBT化で何が変わる?科目A/科目Bの新名称と対策の変え方」で解説しています。本記事では検索でたどり着きやすい「午前1」の呼称を主軸にしつつ、新名称を併記して進めます。

筆者はIT企業でインフラエンジニアとしてサーバーやルーターの設定・設計を担当し、その後、事業会社のCIOとして社内のIT統制とシステム開発の責任を負う立場になりました。プロジェクトの現場で痛感したのは、「遅れている」「予算が厳しい」という感覚的な報告は、ほぼ例外なく実態より楽観的だという事実です。EVMもアローダイアグラムも、その感覚を数字と経路に置き換えるための道具にすぎません。試験に出てくる公式は、炎上を早期に検知するための計器盤そのものです。

本シリーズの全体戦略は導入記事「元CIOが実践するスタミナ温存術!「コスパ極振り」最短エスケープルート・完全版ロードマップ」に、前回のシステム開発技術は「システム開発技術を攻略!開発手法・凝集度と結合度・テスト技法の頻出パターン完全ガイド」にまとめています。本記事は第8回、テクノロジ系(第1部)を終えてマネジメント系(第2部)に入る最初の回です。

この記事で学べること

  • 午前1のプロジェクトマネジメントで「取る問題」と「捨てる問題」の線引き
  • PV・EV・ACの3つのものさしの違いと、どれが計画でどれが実績なのかの見分け方
  • CV・SV・CPI・SPIの公式と、符号や1との大小から状況を言い当てる手順
  • EAC(完成時総コスト見積り)の2つの求め方と使い分け
  • アローダイアグラムの記法、最早結合点時刻・最遅結合点時刻の計算手順
  • フロート(余裕日数)の求め方とクリティカルパスの特定方法
  • ダミー作業が必要になる2つの場面
  • ガントチャートとの使い分け、三点見積り、クラッシングとファストトラッキング、リスク対応の4分類

午前1のプロジェクトマネジメントは「計算2パターン」で取り切る

最初に投資先を決めます。この分野は用語の暗記量が少なく、代わりに手順の再現性で決まります。

午前1は30問中18問で通過する試験

午前1は30問出題され、100点満点中60点以上で通過します。18問取れば十分です。テクノロジ系・マネジメント系・ストラテジ系の全分野から出題され、マネジメント系は全体でおおむね5問前後、そのうちプロジェクトマネジメントからは1〜2問というのが標準的な配分です(午前1はテクノロジ系17問・マネジメント系5問・ストラテジ系8問程度の構成が目安です)。

問題数は少ないのですが、この分野の費用対効果は極めて高いと言い切れます。理由は単純で、出題パターンが2つしかないからです。EVMの指標を計算させる問題か、アローダイアグラムからクリティカルパスや余裕日数を読み取らせる問題。この2つを手順として体に入れておけば、その場で確実に得点できます。テクノロジ系の計算問題のように、公式を覚えていても条件の読み違いで落とすということが起こりにくい構造です。

取る問題:EVMの4指標とアローダイアグラムのクリティカルパス

優先して押さえるのは次の3つです。

1つ目はEVMの指標計算です。 PV・EV・ACの3つの値が与えられ、CV(コスト差異)とSV(スケジュール差異)、CPI(コスト効率指数)とSPI(スケジュール効率指数)を求めさせる問題です。公式は引き算と割り算だけです。

2つ目はアローダイアグラムの読み取りです。 図が与えられ、全体の所要日数、クリティカルパス、特定の作業の余裕日数(フロート)を問う問題です。前進計算と後退計算という2つの手順を機械的に実行するだけで解けます。

3つ目は基本用語の識別です。 WBS、スコープ、リスク対応の4分類、クラッシングとファストトラッキング、三点見積り。定義を一言で言えれば足ります。

捨てる問題:PMBOKの体系そのものの丸暗記

逆に、時間をかけない領域も決めておきます。PMBOKガイドのプロセス数や各プロセスの入出力、JIS Q 21500のプロセス一覧の全暗記、EVMの派生指標(TCPIなど)の細部、品質管理におけるQC七つ道具それぞれの作図法といった論点は、労力に対する見返りが小さい部分です。名称と一言の説明だけ押さえ、出たら消去法で当てにいく判断で構いません。体系の暗記より、上記2つの計算手順の再現性に時間を使うほうが確実に点になります。

要件が固まらないまま1年半をかけたプロジェクト

事業会社のCIOだった頃、CTI(電話をかける仕組み)とCRM(顧客管理の仕組み)を統合する新システム開発でプロジェクト責任者を務めたことがあります。要件定義をしても、現場の業務スピードが速く、要件がどんどん変わっていきました。結局1年半を費やしてプロジェクトは頓挫しています。今なら、業務改善や業務の共通化といったシステムの外側での対応をまず考えるところですが、当時は何でもシステムで吸収するという短絡的な思考回路でした。この経験は、後年ITコーディネータを志す動機の一つにもなっています。

振り返ると、当時の自分にはプロジェクトの状態を数字で見る道具がありませんでした。「今月も要件が変わったが、なんとか吸収できている」という感覚だけで走っていたわけです。もしEVMを回していれば、EVが伸びない一方でACだけが積み上がる状況、つまりCVもSVもマイナスに開き続ける様子が数字として見えていたはずです。EVMの価値は、要件変更の是非を判断することではなく、「このまま進めたらいくらで終わるのか」を早い段階で突きつけることにあります。試験では単なる四則演算ですが、その数字が意思決定を変える場面は現実に存在します。

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プロジェクトマネジメントの基本:何を管理する仕事なのか

計算に入る前に、土台となる考え方と用語を整理します。ここは選択肢の識別問題として出ます。

プロジェクトの定義:有期性と独自性

プロジェクトとは、独自の成果物やサービスを創出するために実施される、有期的な活動です。ポイントは2つあります。

  • 有期性:明確な開始と終了がある。終わりのない継続的な活動は「定常業務」であり、プロジェクトではない
  • 独自性:これまでと同じものを繰り返し作るのではなく、固有の成果物を生み出す

この定義から、「日々のシステム運用」はプロジェクトではなく定常業務、「新システムの構築と移行」はプロジェクト、という区別が生まれます。次回扱うITサービスマネジメントが定常業務側の管理手法であるのに対し、プロジェクトマネジメントは有期の活動を管理する手法だと位置づけておくと、両者が混ざりません。

JIS Q 21500の5つのプロセス群

JIS Q 21500(プロジェクトマネジメントの手引)は、ISO 21500を基にした日本産業規格で、プロジェクトマネジメントのプロセスを次の5つのプロセス群に整理しています。

  • 立ち上げ:プロジェクトの開始を承認し、目的と体制を定める
  • 計画:スコープ、日程、コスト、品質、資源、リスクなどの計画を作成する
  • 実行:計画に従って作業を遂行する
  • 管理:計画と実績の差異を測定し、必要な是正処置を行う
  • 終結:成果物を引き渡し、プロジェクトを正式に完了させる

EVMは、このうち「管理」プロセス群で使う代表的な道具です。計画(PV)に対して実績(EV・AC)を測り、差異を検出して是正につなげるという位置づけを押さえておくと、EVMが何のための道具かが腹落ちします。

PMBOKガイドと第7版での変化

PMBOK(Project Management Body of Knowledge)ガイドは、米国のPMI(Project Management Institute)がまとめたプロジェクトマネジメントの知識体系です。第6版までは「立ち上げ/計画/実行/監視・コントロール/終結」の5つのプロセス群と、統合・スコープ・スケジュール・コスト・品質・資源・コミュニケーション・リスク・調達・ステークホルダという10の知識エリアで構成されていました。

2021年に発行された第7版では、この構成が大きく変わり、12の原理・原則8つのパフォーマンス・ドメイン(ステークホルダ、チーム、開発アプローチとライフサイクル、計画、プロジェクト作業、デリバリー、測定、不確実性)を軸とする体系になりました。プロセス中心から原理・原則と価値の実現を重視する構成への転換です。

試験対策としては、「第6版までは10の知識エリア、第7版では8つのパフォーマンス・ドメイン」という変化の事実と、知識エリアの名称レベルを押さえておけば十分です。プロセスの一覧を暗記する必要はありません。

WBSとスコープマネジメント

WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)は、プロジェクトの成果物と作業を階層的に分解した図です。最下位の要素をワークパッケージと呼び、これが日程見積り・コスト見積り・要員割当ての最小単位になります。

WBSが重要なのは、スコープ(プロジェクトで実施する作業の範囲)を目に見える形で確定させるからです。WBSに書かれていない作業はプロジェクトの範囲外である、という合意が成立します。範囲が曖昧なまま作業が際限なく膨らんでいく現象をスコープクリープと呼びます。要件が固まらないまま作業が増え続ける状況は、まさにこれです。

つまずきやすいのは、WBSと後述するアローダイアグラムの役割の違いです。WBSは「何をやるか」を分解する図であって、作業の前後関係や日程は表しません。順序と日程を扱うのがアローダイアグラムやガントチャートです。

ステークホルダとRACIチャート

ステークホルダ(利害関係者)は、プロジェクトの結果に影響を与える、または影響を受ける個人・組織です。発注者、利用部門、開発チーム、経営層、外部の委託先などが該当します。

役割分担を明確にする道具がRACIチャート(責任分担マトリックス)です。作業ごとに、実行責任者(Responsible)、説明責任者(Accountable)、相談先(Consulted)、報告先(Informed)を割り当てます。実務でよく起きるのは、AとRの混同です。実際に手を動かす人(R)は複数いてよいのですが、最終的に説明責任を負う人(A)は1つの作業につき1人だけ、というのが原則です。

EVM:プロジェクトの炎上を数字で可視化する

ここから本題の計算です。EVMは午前1で最も出やすい計算パターンです。

PV・EV・ACという3つのものさし

EVM(Earned Value Management:アーンドバリューマネジメント)は、プロジェクトの進捗とコストをすべて金額に換算して同じ土俵で比較する手法です。基本となる3つの値を、まず正確に区別します。

  • PV(Planned Value:計画価値):その時点までに完了しているはずだった作業の、予算上の金額
  • EV(Earned Value:出来高、達成価値):その時点までに実際に完了した作業の、予算上の金額
  • AC(Actual Cost:実コスト):その時点までに実際にかかった金額

区別のコツは、「計画か実績か」「予算額か実費か」という2軸で捉えることです。PVは計画の予算額、EVは実績の予算額、ACは実績の実費です。EVだけが「実際に終わった作業を、予算の単価で評価し直した値」である点が最大のポイントで、ここを取り違えるとすべての指標が狂います。

もう1つ、完成時点での総予算をBAC(Budget At Completion:完成時総予算)と呼びます。プロジェクト終了時のPVの最終値と一致します。

CVとSVで差異を見る

3つの値の差を取ると、コストとスケジュールの状況が金額で分かります。

  • CV(Cost Variance:コスト差異)= EV - AC
  • SV(Schedule Variance:スケジュール差異)= EV - PV

どちらもEVから引くのが共通の形です。CVはACを引き、SVはPVを引く。この2つを覚えるだけです。

判定は符号で行います。プラスなら良好、マイナスなら黄信号です。

  • CVがマイナス:出来高より実費が多い、つまり予算超過
  • SVがマイナス:出来高が計画に届いていない、つまり進捗遅延

つまずきポイントは引く順序です。「AC - EV」と逆に計算すると符号が反転し、予算超過なのに良好と判定してしまいます。必ずEVを先頭に置くと決めて手を動かしてください。SVが「時間ではなく金額で表される」ことも引っかけになります。SVがマイナス100万円というのは「100万円分の作業が遅れている」という意味で、「100日遅れている」ではありません。

CPIとSPIで効率を見る

差額ではなく効率(比率)で見るのが次の2指標です。

  • CPI(Cost Performance Index:コスト効率指数)= EV ÷ AC
  • SPI(Schedule Performance Index:スケジュール効率指数)= EV ÷ PV

こちらもEVが分子で共通です。判定は1との大小で行います。

  • CPIが1未満:投入したコストに見合う出来高が出ていない(予算超過)
  • SPIが1未満:計画に対して出来高が不足している(進捗遅延)

CPIが0.8なら「1円投じて0.8円分の価値しか生んでいない」、SPIが0.75なら「計画の75%しか進んでいない」と読みます。差異(CV・SV)が「いくら」を示すのに対し、効率(CPI・SPI)は「どれくらいの割合で」を示します。プロジェクトの規模が違っても比較できるのが効率指標の利点です。

EACとETC:このまま進めるといくらかかるか

現場で最も知りたいのは「結局いくらで終わるのか」です。それを示すのがEAC(Estimate At Completion:完成時総コスト見積り)です。求め方は前提の置き方によって2通りあります。

1つ目は、現在のコスト効率が最後まで続くと考える方法です。

EAC = BAC ÷ CPI

効率が悪いまま推移するという前提なので、悲観的かつ現実的な見積りになります。午前1で問われるのは通常こちらです。

2つ目は、残りの作業は計画どおりの効率でできると考える方法です。

EAC = AC +(BAC - EV)

すでに使った実費に、残作業の予算額をそのまま足す形です。差異が一時的な原因によるもので再発しない、と判断できる場合に使います。

関連する指標として、残作業に必要なコストを表すETC(Estimate To Complete)= EAC - AC、完成時のコスト差異を表すVAC(Variance At Completion)= BAC - EAC があります。

具体例で計算する

数字を入れて手を動かします。次の条件のプロジェクトを考えます。

  • 完成時総予算(BAC):1,000万円
  • ある時点での計画価値(PV):400万円
  • 同時点での出来高(EV):300万円
  • 同時点での実コスト(AC):375万円

順に計算します。

  • CV = EV - AC = 300 - 375 = -75万円(75万円の予算超過)
  • SV = EV - PV = 300 - 400 = -100万円(100万円分の作業が遅れている)
  • CPI = EV ÷ AC = 300 ÷ 375 = 0.8(1未満なのでコスト効率が悪い)
  • SPI = EV ÷ PV = 300 ÷ 400 = 0.75(1未満なので進捗が遅れている)
  • EAC = BAC ÷ CPI = 1,000 ÷ 0.8 = 1,250万円
  • VAC = BAC - EAC = 1,000 - 1,250 = -250万円(250万円の超過見込み)

このプロジェクトは、コストも進捗も両方が悪化しており、このまま進めれば予算を250万円超過して着地する、と数字が告げています。「進捗は概ね順調です」という口頭報告がどれほど頼りにならないかが分かるはずです。

EVMのPV・EV・AC3曲線グラフ。現在時点でCV(EVとACの差)とSV(EVとPVの差)を矢印で示し、右端にBACとEACの水準差を表した図

つまずきポイント:SVは金額、SPIは比率

学び始めの人がここでつまずくのは、おおむね次の3点です。

第1に、EVとACの取り違えです。 「実際にかかった費用」という日本語に引きずられてEVを選んでしまう誤りが典型です。EVはあくまで予算の単価で評価した出来高であり、実費ではありません。

第2に、引く順序と割る順序です。 CVもSVもEVから引き、CPIもSPIもEVで割ります。「EVが常に主役」と覚えると迷いません。

第3に、SVの単位です。 スケジュールの差異なのに単位は金額です。時間で表したい場合は別の指標(SV(t)など)を使いますが、午前1では通常の金額ベースのSVで足ります。

アローダイアグラム:クリティカルパスを見つける手順

もう1つの定番計算です。図を読んで機械的に数えるだけで、公式の暗記もほとんど不要です。

アローダイアグラムの記法

アローダイアグラム(PERT図、アローダイアグラム法)は、作業の前後関係と所要日数を、矢印と結合点で表した図です。

  • 矢印(アロー):1つの作業を表す。矢印の上に作業名、下に所要日数を書く
  • 結合点(ノード、イベント):作業の開始点・終了点を表す丸印。通常は番号を振る
  • 点線の矢印ダミー作業。所要時間0で、作業の前後関係だけを表す

結合点は「その時点」を表すだけで、時間を消費しません。ある結合点から出る作業は、そこに入るすべての作業が完了しないと開始できないという制約が、この図の唯一のルールです。この一文を理解していれば計算は自動的に決まります。

ダミー作業が必要になる場面は2つあります。1つは、先行関係だけを表現したい場合です。作業Cは作業Aと作業Bの両方が終わってから始まるが、作業Dは作業Aだけが終われば始まる、といった関係は実線だけでは書けません。もう1つは、開始と終了の結合点が同じ2つの作業を区別したい場合です。同じ結合点間に2本の矢印を引くと作業を一意に識別できないため、片方をダミー作業で迂回させます。

最早結合点時刻の求め方(前進計算)

最早結合点時刻(最早開始日)は、その結合点に到達できる最も早い時刻です。開始点を0として、左から右へ計算します。

複数の矢印が入ってくる結合点では、それぞれの経路で計算した値のうち最大値を採用します。 すべての先行作業が完了しないと次に進めないため、最も遅く到着する経路に引きずられるからです。ここで最小値を取ってしまうのが最頻出のミスです。

最遅結合点時刻の求め方(後退計算)

最遅結合点時刻(最遅開始日)は、プロジェクト全体を遅らせずに済む最も遅い時刻です。終了点の最早結合点時刻をそのまま終了点の最遅結合点時刻とし、右から左へ引き算していきます。

複数の矢印が出ていく結合点では、それぞれの経路で計算した値のうち最小値を採用します。 どの後続作業も遅らせてはいけないため、最も厳しい制約に合わせるからです。前進計算は最大、後退計算は最小。この対比で覚えてください。

フロート(余裕日数)とクリティカルパス

フロート(余裕日数、スラック)は、その作業を何日遅らせてもプロジェクト全体に影響しないかを示す日数です。作業ごとのトータルフロートは次の式で求めます。

トータルフロート = (終点の最遅結合点時刻)-(始点の最早結合点時刻)-(所要日数)

フロートが0の作業を結んだ経路が、クリティカルパスです。クリティカルパスは開始点から終了点までの最長経路であり、その所要日数の合計がプロジェクト全体の所要日数になります。クリティカルパス上の作業が1日遅れれば、プロジェクト全体が1日遅れます。

日程短縮を検討するときは、クリティカルパス上の作業を短縮しなければ意味がありません。余裕のある作業をいくら急がせても全体は1日も縮まない、という点が実務でも試験でも重要です。

例題を解く

次のプロジェクトを考えます。結合点を①〜⑥とし、作業は次のとおりです。

作業経路所要日数
A①→②4日
B①→③3日
C②→④5日
D(ダミー)③→④0日
E③→⑤6日
F④→⑥3日
G⑤→⑥2日

前進計算(最早結合点時刻) を左から順に行います。

  • ①=0
  • ②=0+4=4
  • ③=0+3=3
  • ④=max(②+5=9、③+0=3)=9
  • ⑤=3+6=9
  • ⑥=max(④+3=12、⑤+2=11)=12

プロジェクト全体の所要日数は12日です。

後退計算(最遅結合点時刻) を右から順に行います。

  • ⑥=12
  • ⑤=12-2=10
  • ④=12-3=9
  • ③=min(④-0=9、⑤-6=4)=4
  • ②=9-5=4
  • ①=min(②-4=0、③-3=1)=0

フロートの計算は次のとおりです。

  • A(①→②):4-0-4=0日
  • B(①→③):4-0-3=1日
  • C(②→④):9-4-5=0日
  • D(③→④):9-3-0=6日
  • E(③→⑤):10-3-6=1日
  • F(④→⑥):12-9-3=0日
  • G(⑤→⑥):12-9-2=1日

フロートが0なのはA・C・Fです。したがってクリティカルパスは ①→②→④→⑥(作業A→C→F)であり、所要日数は 4+5+3=12日。前進計算で求めた全体日数と一致します。この一致は計算が正しいことの検算になるので、必ず確認してください。

作業Eは1日の余裕しかないため、2日遅れればクリティカルパスが ①→③→⑤→⑥ 側に移り、全体が遅延します。フロートは「使い切ったら次はクリティカルになる」性質を持つ点も、押さえておく価値があります。

アローダイアグラムの例題図。結合点①〜⑥を作業A〜G(Dはダミー作業)で結び、各結合点に最早結合点時刻と最遅結合点時刻を併記し、クリティカルパス①→②→④→⑥を赤の太線で強調した図

つまずきポイント:最大か最小か、ダミー作業の向き

この分野の失点は、ほぼ次の3つに集約されます。

第1に、前進計算で最小値を取ってしまう誤りです。 「早い時刻を求めるのだから小さいほうだろう」と考えてしまうのですが、逆です。すべての先行作業が終わるのを待つのだから最大値です。後退計算は逆に最小値。前進は最大、後退は最小、と対で覚えてください。

第2に、ダミー作業を無視することです。 所要日数0だからといって存在しないわけではありません。ダミー作業も前後関係の制約として計算に必ず含めます。上の例でも、③→④のダミーは結合点③の最遅結合点時刻を決める候補として計算に入っています。また、ダミー作業には向きがあり、逆向きに読むと前後関係が反転してしまいます。

第3に、クリティカルパスが複数存在しうることの見落としです。 同じ長さの最長経路が2本あれば、クリティカルパスは2本になります。「クリティカルパスは必ず1本」という思い込みは誤りです。

日程・コスト・リスクの管理技法

計算問題以外の論点を、用語の識別レベルで押さえます。

ガントチャートとアローダイアグラムの使い分け

ガントチャートは、縦軸に作業、横軸に時間を取り、各作業の期間を横棒で表す図です。誰がいつ何をしているかという進捗状況を直感的に把握でき、実績を棒に重ねて描けば遅れも一目で分かります。

一方で、ガントチャートは作業間の依存関係を表現しにくいという弱点があります。ある作業が遅れたときに、どの作業が連鎖して遅れるのかが読み取れません。そこを補うのがアローダイアグラムです。逆にアローダイアグラムは、誰がどの期間に稼働しているかという要員の視点は苦手です。

つまり、依存関係とクリティカルパスの分析はアローダイアグラム、日々の進捗管理と要員の把握はガントチャートという使い分けになります。試験では「作業間の関連を明確にする図はどれか」ならアローダイアグラム、「進捗状況を視覚的に把握する図はどれか」ならガントチャート、と即答できる状態を目指します。

ガントチャートとアローダイアグラムの比較図。左パネルはガントチャート(横棒による簡略イメージ)で進捗と要員把握が得意、依存関係の表現が苦手。右パネルはアローダイアグラム(結合点と矢印の簡略イメージ)で依存関係とクリティカルパスの分析が得意、要員稼働の把握が苦手であることを示す

PERTの三点見積り

作業の所要時間に不確実性がある場合、三点見積りで期待値を求めます。楽観値(最も順調な場合)、最可能値(最も起こりやすい場合)、悲観値(最も難航した場合)の3つを見積り、次の式で期待値を計算します。

期待所要時間 = (楽観値 + 4×最可能値 + 悲観値)÷ 6

最可能値に4倍の重みを置き、合計を6で割る形です。たとえば楽観値2日、最可能値5日、悲観値14日なら、(2+20+14)÷6=6日となります。単純平均(7日)より最可能値寄りの値になる点が特徴です。式の形さえ覚えていれば確実に解けます。

日程短縮:クラッシングとファストトラッキング

遅れを取り戻す手法は2つあります。

クラッシングは、要員や設備といった資源を追加投入して期間を短縮する手法です。コストは増加します。

ファストトラッキングは、本来は順番に行う作業を部分的に並行して実施することで期間を短縮する手法です。追加コストは抑えられますが、前工程の成果が確定しないまま次を始めるため、手戻りのリスクが増加します。

どちらもクリティカルパス上の作業に適用しなければ効果がありません。また、要員追加についてはブルックスの法則(遅れているソフトウェアプロジェクトに要員を追加すると、さらに遅れる)という有名な指摘があります。教育や引き継ぎのコミュニケーションコストが増えるためで、クラッシングが万能ではないことを示す論点として出題されます。

要員配置に関しては、期間ごとに必要な要員数を積み上げる山積み、その凹凸を平準化する山崩しという用語も押さえておきます。山崩しではフロートのある作業をずらして調整するため、ここでもフロートの理解が効いてきます。

リスク対応の4分類

リスクマネジメントは、リスクの特定、分析(発生確率と影響度の評価)、対応計画、監視という流れで進みます。午前1で問われるのは、マイナスのリスク(脅威)への対応4分類です。

  • 回避:リスクの原因となる活動そのものをやめる(該当機能を実装しない、など)
  • 転嫁(移転):リスクによる損失を第三者に移す(保険への加入、外部委託など)
  • 軽減(低減):発生確率または影響度を下げる(冗長化、事前検証など)
  • 受容(保有):対応せず受け入れる。影響が小さい、または対策コストが損失を上回る場合

この4分類は、発生確率と影響度のマトリックスと組み合わせて整理すると覚えやすくなります。発生確率も影響度も高いリスクは活動そのものをやめる回避、発生確率は低いが影響度が大きいリスクは保険などで損失を移す転嫁、発生確率は高いが影響度が小さいリスクは冗長化などで軽減、どちらも小さいリスクは受容、という対応づけが典型例です(あくまで考え方の目安であり、実際にはコストと便益を見て選びます)。

SC試験の文脈では、この4分類がそのまま情報セキュリティのリスク対応の枠組みとして登場します。サイバー保険への加入がリスク転嫁の典型例、脆弱性を持つ機能の廃止がリスク回避の典型例です。プラスのリスク(好機)への対応として、活用・共有・強化・受容が定義されている点も、余力があれば押さえておきます。なお、PMBOK第6版以降は脅威・好機のどちらにも「エスカレーション」(自分の権限を超えるリスクを上位者に引き上げる)が加わって5分類となっていますが、午前1で問われるのは基本の4分類です。

リスク対応の4分類マトリックス。縦軸に発生確率(高・低)、横軸に影響度(高・低)を取り、4象限に回避・軽減(低減)・転嫁(移転)・受容(保有)とそれぞれの具体例を配置した図

品質管理とコミュニケーション

品質管理では、QC七つ道具(パレート図、特性要因図、管理図、ヒストグラム、散布図、チェックシート、層別)の名称と用途が問われます。特に、原因を魚の骨のような形で整理する特性要因図、件数の多い項目から並べて累積比率を折れ線で示すパレート図は頻出です。パレート図は「上位の少数項目が全体の大部分を占める」というパレートの法則に基づき、重点対策の対象を選ぶために使います。

コミュニケーションでは、参加人数nに対する経路数が n×(n-1)÷2 で増える点が計算問題として出ることがあります。5人なら10経路、10人なら45経路です。人数が増えるほど調整コストが急増するという、ブルックスの法則の根拠にもなる関係です。

SC試験での出題パターンと対策

ここまでの内容が、実際の試験でどう問われるかを整理します。

午前1で繰り返される3つの型

第1の型はEVMの指標計算です。PV・EV・ACが与えられ、「コスト差異はいくらか」「CPIの値はどれか」「このまま進んだ場合の完成時総コストはいくらか」と問われます。公式さえ正確なら計算自体は数秒で終わります。

第2の型はアローダイアグラムの読み取りです。「全体の所要日数は何日か」「作業Xの余裕日数は何日か」「作業Yを2日短縮すると全体は何日短縮されるか」といった問い方をされます。最後の型は特に要注意で、短縮する作業がクリティカルパス上になければ全体は1日も縮まりません。また、クリティカルパス上の作業を短縮しすぎると別の経路がクリティカルパスに変わり、それ以上は縮まらなくなります。

第3の型は用語の識別です。「ファストトラッキングの説明として適切なものはどれか」「リスク対応のうち転嫁に該当するものはどれか」といった形式で、定義と例の対応を問われます。

出題形式は非常に安定しており、午前1では類似の問題が繰り返し出題されています。過去問をこの分野で絞って解き、計算手順を体に入れておくのが最短の対策です。

SC試験の午前2・午後との接続

プロジェクトマネジメントは、SC試験本体では姿を変えて登場します。午前2では、セキュリティ対策の導入計画やリスクアセスメントの手順といった形で、リスク対応の4分類や優先順位付けの考え方が問われます。午後では、インシデント対応や脆弱性対応を「限られた期間と要員でどう回すか」という事例として出題されます。

たとえば、緊急の脆弱性が公表され、修正パッチの適用を計画する場面を考えます。検証環境での動作確認、業務影響の調整、本番適用、切り戻し手順の準備という作業には明確な前後関係があり、どこがクリティカルパスかを見誤れば公表から適用までの時間が伸びます。逆に、余裕のある作業を急がせても暴露期間は1日も短くなりません。アローダイアグラムの発想はそのまま使えます。

リスク対応の4分類も同様です。脆弱性が残る機能を停止するのが回避、サイバー保険で損失を移すのが転嫁、WAFや監視強化で影響を抑えるのが軽減、影響が軽微と判断して受け入れるのが受容。午前1で覚えた枠組みが、そのまま午後の記述の骨格になります。

【演習】プロジェクトマネジメント 理解度チェック(全10問)

午前1では、EVMの指標計算とアローダイアグラムのクリティカルパス・余裕日数の読み取りが定型で問われ、加えてリスク対応や日程短縮技法の用語識別が出ます。午後では、インシデント対応や脆弱性対応の優先順位付けという形で同じ考え方が事例に埋め込まれます。定番の引っかけは、CVとSVの引く順序を逆にする誤り、前進計算で最大値ではなく最小値を取る誤り、クリティカルパス上にない作業を短縮しても全体日数が縮まると考える誤りの3つです。以下の練習問題で本記事の理解度を確認してみましょう。

【練習問題】プロジェクトマネジメント(全10問)

まとめ:計算アレルギーでも公式さえ覚えれば必ず解けるパズル

午前1のプロジェクトマネジメントは、覚えるべきものが極端に少ない分野です。EVMは「CVもSVもEVから引く、CPIもSPIもEVを割る、差はマイナス・比は1未満が黄信号」。アローダイアグラムは「前進計算は最大、後退計算は最小、フロート0がクリティカルパス」。この2行を確実に再現できれば、出題の大半が解けます。計算に苦手意識がある人ほど、この分野は逆に安定した得点源になります。パズルの解き方が完全に決まっているからです。

事業会社でシステム開発の責任を負っていた立場から振り返ると、これらの手法の本質は「感覚を数字に置き換えること」に尽きます。プロジェクトが危ないという直感は、たいてい正しいのですが、直感のままでは誰も動かせません。CVが-75万円、EACが1,250万円という数字になって初めて、追加投資か縮小かという判断の土俵に乗ります。クリティカルパスも同じで、「あの作業が心配だ」ではなく「あの作業はフロート0だから1日の遅れが全体の1日の遅れになる」と言えたとき、初めて優先順位の議論が成立します。

新卒エンジニアにインフラを教えていた頃の実感として、公式そのものより「なぜそう組み立てるのか」を先に伝えたほうが定着は早くなります。EVMも同じで、EVを主役に置く理由から入るのが近道です。計画(PV)と実費(AC)だけを比べても、進んだのか使いすぎたのかが判別できません。出来高(EV)という第3の物差しを挟むことで初めて、コストの問題とスケジュールの問題を切り分けられるようになります。この構造さえ理解していれば、公式を一時的に忘れても組み立て直せます。

次回はマネジメント系の第9回として、ITサービスマネジメント(ITIL)を扱います。プロジェクトが「有期の活動」を管理する手法だったのに対し、こちらは稼働後のサービスという「終わらない活動」を管理する手法です。インシデント管理、問題管理、変更管理、リリース管理の違いと、SLAの考え方が中心になります。SC試験の午後で頻出のインシデント対応の土台にもなる分野なので、本記事以上に投資対効果が高い回です。

本記事は情報処理安全確保支援士(SC)試験対策を目的として作成しています。

参考資料

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  • この記事を書いた人

Kenta Banno

元CIOの窓際サラリーマン(50代)。プライム上場企業の片隅で、情報処理安全確保支援士の合格を目指して奮闘中! 現在はAI(Gemini/Claude)を「壁打ち相手」として徹底活用し、日々の学習の備忘録とアウトプットを兼ねて記事を投稿しています。同じ資格を目指す初学者の参考になれば嬉しいです。

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