経営戦略は、午前1(科目A-1)の中で最も「読めば分かるのに、間違える」分野です。SWOT分析もPPMもCRMも、言葉としては見たことがある。ところが選択肢に並ぶと、CRMとSFAのどちらが営業活動の支援でどちらが顧客との関係全体なのか、KGIとKPIのどちらが最終目標なのかで手が止まります。この分野の失点は、知らないから起きるのではなく、輪郭がぼやけているから起きます。
逆に言えば、対策はシンプルです。計算はほとんど出ません。覚えるのは用語の輪郭と、似た用語を分ける「軸」だけです。本記事では、その軸の作り方を、混同しやすいペアの対比を中心に整理します。
なお、SC試験は2026年度からCBT方式へ移行し、試験区分の名称も変更されます。午前Ⅰが科目A-1、午前Ⅱが科目A-2、午後が科目Bという呼び方になります。これはIPAの試験要綱Ver.5.6(2026年10月の試験から適用)に反映済みで、出題範囲・出題数・試験時間に変更はありません。制度変更の詳細は「【2026年度版】情報処理安全確保支援士試験のCBT化で何が変わる?科目A/科目Bの新名称と対策の変え方」で解説しています。本記事では検索でたどり着きやすい「午前1」の呼称を主軸にしつつ、新名称を併記して進めます。
筆者はIT企業でインフラエンジニアとしてサーバーやルーターの設定・設計を担当したのち、事業会社のCIOとして経営側でIT投資の判断を行う立場になりました。受託側から発注側に移った瞬間に、求められる言語が変わったのを覚えています。それまでは「どう作るか」を語っていればよかったのに、経営会議では「その投資が売上や顧客満足にどうつながるのか」を説明しなければ何も通りません。SWOTやバランススコアカードは、試験対策の暗記項目に見えて、実際は経営陣と技術者が同じ言語で話すための共通フォーマットです。そう捉えると、この分野の用語は急に覚えやすくなります。
本シリーズの全体戦略は導入記事「元CIOが実践するスタミナ温存術!「コスパ極振り」最短エスケープルート・完全版ロードマップ」に、前回のシステム監査は「システム監査を攻略!内部統制・監査手続・システム管理基準の頻出パターン完全ガイド」にまとめています。本記事は第11回、ストラテジ系(第3部)の1本目です。
この記事で学べること
- 午前1の経営戦略で「取る問題」と「捨てる問題」の線引き
- SWOT分析・PPM・成長マトリクス・コアコンピタンスといった経営戦略手法の輪郭
- M&Aとアライアンスの類型、ブルーオーシャン戦略と競争地位別戦略の位置づけ
- マーケティングの4Pと4Cの対応、STP、プロダクトライフサイクル、価格戦略
- バランススコアカードの4つの視点と、CSF・KGI・KPIの階層関係
- バリューチェーン分析で「どこで価値が生まれているか」を切り分ける考え方
- CRM・SCM・ERP・SFA・ナレッジマネジメントの守備範囲の違い
- 電子商取引の分類(BtoB/BtoC/CtoC)とロングテール、IoT・AI活用の頻出用語
- 午前1で狙われる混同ペアの総まとめ
午前1の経営戦略は「用語の識別」で取り切る
最初に投資先を決めます。経営戦略は範囲が広く見えますが、実際に問われる用語は繰り返し同じです。深追いせず、頻出の輪郭だけを正確に持つのが最も効率的です。
午前1は30問中18問で通過する試験
午前1は30問出題され、100点満点中60点以上で通過します。18問取れれば十分です。テクノロジ系・マネジメント系・ストラテジ系の全分野から出題されます。分野ごとの出題数はIPAが公表していませんが、過去問の傾向を見る限り、テクノロジ系17問前後・マネジメント系5問前後・ストラテジ系8問前後という配分が目安です。そのうち経営戦略マネジメント・ビジネスインダストリの領域からは、複数問が出るのが通例です。
出題数だけ見れば、テクノロジ系に次ぐボリュームゾーンです。しかも計算がほぼありません。ネットワークやアルゴリズムに時間を投じるより、この分野の用語を確実にすることのほうが、単位時間あたりの得点効率は明らかに高くなります。SC試験の受験者はテクノロジ系が得意な人が多いぶん、ここを取りこぼすともったいない場所です。
取る問題は経営戦略手法・BSC・経営管理システムの識別
優先して押さえるのは次の4つです。
1つ目は経営戦略手法の識別です。 SWOT分析、PPM、成長マトリクス、コアコンピタンス、ブルーオーシャン戦略。「〜の説明はどれか」という形で正面から問われます。
2つ目はバランススコアカードとKPI周りです。 4つの視点の名前と順序、CSF・KGI・KPIの階層関係。ここは毎回のように出ます。
3つ目は経営管理システムの4文字略語です。 CRM、SCM、ERP、SFA、そしてナレッジマネジメント。守備範囲の違いさえ言えれば確実に取れます。
4つ目はマーケティングの基本フレームです。 4Pと4Cの対応、プロダクトライフサイクルの4段階、価格戦略の2類型が中心です。
捨てる問題は個別の会計基準と細かい経営指標の計算
逆に、時間をかけない領域も決めます。財務諸表の細目、減価償却の計算方法、原価計算の各方式、個別の会計基準名、需要予測の統計手法などは、出題頻度に対して覚える量が多すぎます。損益分岐点だけは公式が単純なので押さえてもよいですが、それ以外の計算問題は出たら消去法で当てにいく判断で構いません。
法務(著作権、派遣と請負の違いなど)や企業活動(財務諸表、損益分岐点、OR/IE)は、シラバス上も別の中分類なので本記事では扱いません。本シリーズでは、それぞれ後の回でまとめて整理します。経営戦略の枠内で計算に振り回されないことが、この分野の最大のコツです。
似た用語は「軸」で束ねると混同しなくなる
学び始めの人がこの分野で苦戦する最大の理由は、用語を一つずつ丸暗記しようとするからです。50個の孤立した言葉を覚えるのは苦行ですが、「軸」で束ねると一気に減ります。
たとえば経営管理システムの略語は、「誰との関係を管理するか」という軸ひとつで分かれます。CRMは顧客との関係、SCMは仕入先から顧客までの供給の流れ、ERPは社内の経営資源、SFAは営業担当者の活動。この軸を先に立てておけば、選択肢を読んだ瞬間に候補が1つに絞れます。
新卒エンジニアに教えていた頃も、用語カードを大量に作って挫折する人ほど、軸を持っていませんでした。カードを増やす前に、軸を3本立てる。この順序を守るだけで、ストラテジ系の学習時間は半分以下になります。
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経営戦略手法:SWOT・PPM・コアコンピタンスを押さえる
ここからは頻出の経営戦略手法を順に整理します。どれも「何を分析する道具か」を1文で言えるようにするのがゴールです。
SWOT分析は内部と外部を2軸で切る
SWOT分析は、自社の強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)・機会(Opportunities)・脅威(Threats)の4象限で経営環境を整理する手法です。ポイントは、SとWが内部環境、OとTが外部環境だという点にあります。ここを取り違えると設問で必ず落とします。
内部環境は自社でコントロールできるもの(技術力、人材、ブランド、資金)、外部環境は自社ではコントロールできないもの(市場の成長、法規制、競合の動向、為替)です。「競合他社に優れた技術者が多い」は自社の弱みではなく外部の脅威、という判断ができれば十分です。
クロスSWOT分析は、この4象限を掛け合わせて戦略を導く発展形です。強み×機会は積極攻勢、強み×脅威は差別化、弱み×機会は段階的改善、弱み×脅威は撤退や防衛という形になります。SWOTは分析で終わらせず戦略に変換する、というのが出題時の含意です。
PPMは市場成長率と市場占有率の4象限
PPM(Product Portfolio Management)は、複数の製品や事業への資源配分を決めるための手法です。縦軸に市場成長率、横軸に市場占有率(相対的市場シェア)を取り、4つの象限に分類します。
- 花形(Star):成長率も占有率も高い。売上は大きいが、成長市場を維持するための投資も大きく、資金の出入りが激しい
- 金のなる木(Cash Cow):成長率は低いが占有率は高い。追加投資が少なくて済み、資金の供給源になる
- 問題児(Question Mark):成長率は高いが占有率は低い。投資して花形に育てるか、撤退するかの判断が必要
- 負け犬(Dog):成長率も占有率も低い。撤退・縮小の検討対象
出題の核心は資金の流れです。「金のなる木で得た資金を、問題児に投入して花形へ育てる」という循環がPPMの基本ストーリーです。「花形は資金を生み出すので他事業に回せる」という選択肢は、成長維持の投資負担を無視した引っかけです。

成長マトリクスは製品と市場の新旧で4分類
成長マトリクス(アンゾフの成長マトリクス)は、企業の成長戦略を「製品」と「市場」がそれぞれ既存か新規かで4つに分ける枠組みです。
- 市場浸透:既存製品×既存市場。販売頻度や購入量を増やす
- 新製品開発:新規製品×既存市場。既存顧客に新しい製品を出す
- 市場開拓:既存製品×新規市場。海外展開や新しい顧客層への展開
- 多角化:新規製品×新規市場。最もリスクが高い
引っかけは「市場開拓」と「新製品開発」の取り違えです。開拓するのは市場、開発するのは製品。言葉のとおりに読めば迷いません。
コアコンピタンスは真似されにくい中核能力
コアコンピタンスとは、競合他社には容易に模倣できない、自社の中核となる独自の能力・技術です。単に「得意なこと」ではなく、顧客価値に直結し、幅広い製品や市場に展開でき、模倣が困難であることが条件になります。
関連して、ケイパビリティは組織全体の総合的な事業遂行能力を指し、コアコンピタンスより広い概念として扱われます。試験では、自社の強みを核に据えて事業を組み立てる考え方をコアコンピタンス経営と呼ぶ形で出題されます。
対になる概念がアウトソーシングです。コアコンピタンスに経営資源を集中させ、それ以外は外部に委託する。この判断の裏返しとして、委託先経由の情報漏えいリスクが生じる点は、SC試験の午後で直接問われる論点につながります。
M&Aとアライアンスは「資本が動くか」で分ける
企業間の連携の類型は、資本の移動があるかどうかで整理すると混乱しません。
- M&A(Mergers and Acquisitions):合併・買収。資本が動く。時間を買う手段として使われる
- TOB(Take Over Bid):株式公開買付け。買付期間・株数・価格を公告し、市場外で株式を買い集める
- MBO(Management Buyout):経営陣による自社買収。上場廃止して経営の自由度を高める目的などで行われる
- ジョイントベンチャー:複数企業が共同出資して新会社を設立する
- アライアンス(戦略的提携):資本関係を伴わない業務提携も含む、緩やかな協力関係
- 垂直統合:原材料調達から販売まで、供給の上流・下流の工程を自社に取り込む
生産面の用語もセットで問われます。OEMは相手先のブランドで製品を製造すること、ファブレスは自社で生産設備を持たず設計・開発に特化すること、ファウンドリは他社から受託して製造に専念することです。ファブレスとファウンドリは表裏の関係で、両方まとめて覚えると強い組み合わせになります。
ブルーオーシャン戦略と競争地位別戦略
ブルーオーシャン戦略は、競争の激しい既存市場(レッドオーシャン)を避け、競争のない新しい市場空間を創造する戦略です。低コストと差別化を同時に実現する点が特徴で、「価格競争で勝ち抜く」という選択肢は真逆の説明になります。
競争地位別戦略は、市場での立ち位置によって取るべき戦略が変わるという考え方です。リーダは全方位でシェアを守り、チャレンジャはリーダとの差別化で攻め、フォロワは上位を模倣して低コストで追随し、ニッチャは特定の狭い市場に集中します。ニッチ戦略と集中戦略はほぼ同じ発想で、限られた資源を一点に集めるのが本質です。
マーケティングは4Pと4Cの対応から入る
マーケティング分野は用語数は多いものの、出題される範囲は限定的です。ここでは頻出のフレームに絞ります。
4Pは売り手視点、4Cは買い手視点
4Pはマーケティングミックスの構成要素で、製品(Product)・価格(Price)・流通(Place)・販売促進(Promotion)の4つです。これは売り手の視点から施策を整理したものです。
これを買い手の視点に置き換えたのが4Cで、顧客価値(Customer Value)・顧客コスト(Cost)・利便性(Convenience)・コミュニケーション(Communication)が対応します。Productが顧客価値、Priceが顧客コスト、Placeが利便性、Promotionがコミュニケーションという1対1の対応です。
出題では「4Cの説明として適切なものはどれか」という形で、売り手視点と買い手視点を入れ替えた選択肢が並びます。「Pは売る側、Cは買う側」とだけ覚えておけば切り分けられます。

STPは市場を切って狙って位置づける
STPは、セグメンテーション(市場細分化)・ターゲティング(標的市場の選定)・ポジショニング(自社の位置づけ)の頭文字です。順序がそのまま作業の流れになっています。
セグメンテーションの切り口は、地理的変数(地域、気候)、人口統計的変数(年齢、性別、所得)、心理的変数(価値観、ライフスタイル)、行動的変数(購買頻度、利用状況)に整理されます。「セグメンテーションの説明」を問う問題では、標的の選定(ターゲティング)と混同させる選択肢が定番です。切るのがS、選ぶのがT、差別化して位置づけるのがPという順序で覚えます。
RFM分析もあわせて頻出です。Recency(最終購買日)・Frequency(購買頻度)・Monetary(購買金額)の3指標で顧客を分類する手法で、CRMの実務でそのまま使われます。
プロダクトライフサイクルは4段階と施策のセットで
プロダクトライフサイクル(PLC)は、製品が市場に登場してから撤退するまでを4段階で捉える考え方です。
- 導入期:認知度が低く売上は小さい。広告投資が先行し、利益は出にくい
- 成長期:需要が急拡大し売上が伸びる。競合の参入が増え、シェア獲得が課題になる
- 成熟期:売上の伸びが鈍化し市場が飽和する。差別化と製品の改良で維持を図る
- 衰退期:売上・利益が減少する。撤退や新市場への転換を検討する
出題では「成熟期に取るべき施策はどれか」という形で、段階と施策の対応が問われます。導入期に大量生産でコストを下げる、衰退期に大規模な広告投資を行う、といった段階と施策がずれた選択肢が誤りです。
関連してイノベータ理論も押さえます。新製品の採用者を、イノベータ、アーリーアダプタ、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードの5つに分類する考え方で、アーリーアダプタがオピニオンリーダとして普及の鍵を握るとされます。アーリーアダプタとアーリーマジョリティの間にある大きな溝をキャズムと呼びます。

価格戦略は2つの型と、その狙いを覚える
新製品の価格設定には代表的な2つの型があります。
- スキミングプライシング(上澄み吸収価格):初期に高価格を設定し、価格に敏感でない層から早期に開発費を回収する。競合が参入しにくい独自性のある製品向け
- ペネトレーションプライシング(浸透価格):初期から低価格を設定し、短期間で市場シェアを獲得する。量産効果でコストを下げられる製品向け
そのほか、ダイナミックプライシング(需給に応じて価格を変動させる)、フリーミアム(基本機能は無料、高度な機能は有料)、サブスクリプション(期間に応じた定額課金)も現代的な出題として登場します。名前と仕組みを一対一で結びつけておけば十分です。
目標と評価:BSC、CSF・KGI・KPI、バリューチェーン
ここは午前1で最も出題が安定している領域です。しかも用語の階層関係さえ理解すれば、暗記量はごくわずかで済みます。
バランススコアカードは4つの視点で戦略を可視化する
BSC(Balanced Scorecard:バランススコアカード)は、財務指標だけでは測れない企業の業績を、4つの視点から総合的に評価する経営管理手法です。
- 財務の視点:株主や経営に対して、どのような財務的成果を上げるか
- 顧客の視点:顧客に対して、どのような価値を提供するか
- 業務プロセスの視点(内部ビジネスプロセスの視点):財務と顧客の目標を達成するために、どの業務プロセスを優れたものにするか
- 学習と成長の視点:組織の変革能力や人材・情報システムの基盤をどう強化するか
重要なのは、この4つが並列ではなく因果連鎖になっている点です。学習と成長が業務プロセスを改善し、業務プロセスの改善が顧客価値を高め、顧客価値が財務成果につながる。この向きを逆にした選択肢が定番の引っかけです。
セキュリティの文脈では、この枠組みが投資判断に直結します。セキュリティ教育の実施率は学習と成長の視点、インシデント対応時間の短縮は業務プロセスの視点、顧客からの信頼獲得は顧客の視点に置かれます。技術者が「必要だから買ってください」と言っても通らない投資が、この4視点に載せた瞬間に通ることがあります。
CSF・KGI・KPIは目的と手段の階層で覚える
BSCとセットで問われるのが指標の階層です。
- CSF(Critical Success Factor:重要成功要因):目標達成のために決定的に重要な要因。「何をうまくやるべきか」
- KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標):最終的な目標の達成度を測る指標。「ゴールそのもの」
- KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標):KGIに至るプロセスの達成度を測る中間指標。「途中経過」
例を1つ持っておくと迷いません。KGIが「年間売上高20億円」なら、CSFは「新規顧客の獲得力強化」、KPIは「月間の新規商談数」「提案から受注までの転換率」といった形になります。「KGIはゴール、KPIは途中の計器」という対比で覚えれば、選択肢の入れ替えに引っかかりません。

バリューチェーン分析はどこで価値が生まれているかを見る
バリューチェーン(価値連鎖)は、企業活動を価値を生み出す一連の流れとして捉え、どの活動が付加価値を生み、どこにコストがかかっているかを分析する枠組みです。
活動は2つに分かれます。主活動は購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービスといった、製品が顧客に届くまでの直接的な流れです。支援活動は全般管理(インフラストラクチャ)、人事・労務管理、技術開発、調達活動で、主活動を支える機能です。
情報システム部門は、多くの企業でこの支援活動に位置づけられます。だからこそ「コストセンターだ」と言われがちで、投資の説明にバリューチェーンやBSCといった経営の言葉が必要になります。試験用語としてだけでなく、自分の仕事の位置づけを説明する道具として持っておくと役立ちます。
業務改善の関連用語もセットで整理する
ベンチマーキングは、自社の業務プロセスを他社の優れた事例と比較し、差を明らかにして改善につなげる手法です。単なる他社調査ではなく、比較して改善するところまでが定義に含まれます。
BPR(Business Process Reengineering)は、既存の業務プロセスを抜本的に設計し直すことです。改善(少しずつ良くする)ではなく再設計(ゼロから組み直す)という点が問われます。BPM(Business Process Management)は、業務プロセスを継続的に分析・改善するマネジメントサイクルで、BPRより継続的・漸進的な取り組みを指します。
経営管理システム:CRM・SCM・ERP・SFAの守備範囲
4文字略語が最も密集する領域です。ここは「誰の何を管理するか」の軸を先に立てれば、暗記はほとんど不要になります。

CRMは顧客との関係、SFAは営業活動の支援
CRM(Customer Relationship Management)は、顧客に関する情報を一元管理し、購買履歴や問い合わせ履歴をもとに一人ひとりに合った対応を行うことで、顧客との関係を長期的に維持・強化する仕組みです。守備範囲は営業だけでなく、マーケティング、コールセンター、サポートまで含む顧客接点の全体です。
SFA(Sales Force Automation)は、営業担当者の活動を支援する仕組みです。商談の進捗管理、案件のパイプライン管理、日報や訪問履歴の共有、売上予測などが中心で、対象は営業部門の活動そのものです。
試験ではこの2つが必ず並べて出ます。「CRMは顧客との関係全体、SFAは営業担当者の活動」。この一行で区別できます。CRMの説明として「営業担当者の日報を電子化し、案件の進捗を管理する」が出たら、それはSFAです。
筆者はCIO時代に、CTI(電話の仕組み)とCRMを統合する新システム開発でプロジェクト責任者を務め、1年半を費やして頓挫させています。原因ははっきりしていて、要件定義をしても現場の業務スピードが速く、要件がどんどん変わっていったことです。今なら、業務改善や業務の共通化といったシステム外での対応をまず考えるところですが、当時は何でもシステムで吸収しようとする短絡的な思考でした。CRMは道具であって戦略ではありません。バリューチェーンのどこを強くするために入れるのかを決めずに導入すると、こうなります。この失敗の反省が、後年ITコーディネータを志す動機の一つになりました。
SCMは供給の流れ全体を最適化する
SCM(Supply Chain Management)は、原材料の調達から生産、物流、販売、そして最終消費者に届くまでの一連の供給の流れを、企業をまたいで統合的に管理し、全体最適を図る手法です。在庫の削減、リードタイムの短縮、需要変動への対応が目的になります。
関連用語としてブルウィップ効果を押さえます。最終消費者の需要のわずかな変動が、小売、卸、メーカーと供給の上流にさかのぼるほど増幅され、過剰在庫や欠品を招く現象です。名前の由来はムチの動きで、情報共有によって緩和できるとされます。SCMが「情報の共有」を重視する理由がここにあります。
SCMはSC試験本体とも直結します。サプライチェーン全体でセキュリティ水準を揃える必要があるという議論、委託先を踏み台にした攻撃、部品や機器に不正な機能を混入させるリスクは、いずれもこの枠組みの上に載る話です。
ERPは社内の経営資源を統合管理する
ERP(Enterprise Resource Planning)は、会計、人事、生産、販売、在庫といった企業の基幹業務を統合されたデータベース上で一元管理し、経営資源を全社最適の観点で活用する考え方、およびそれを実現するパッケージです。
出題の核心は「統合」です。部門ごとに別々のシステムを持つと、同じ顧客名や品目名が別のコードで管理され、集計のたびに突き合わせ作業が発生します。ERPはこれを1つのデータベースに寄せることで解消します。「ERPは社内の統合、SCMは企業をまたいだ統合」という対比が、そのまま識別の基準になります。
ナレッジマネジメントとSECIモデル
ナレッジマネジメントは、個人が持つ知識やノウハウを組織全体で共有・活用し、企業の競争力を高める経営手法です。
理論的な枠組みがSECIモデルで、知識が4つのプロセスを循環しながら質を高めるとします。共同化(Socialization:暗黙知から暗黙知へ、体験の共有)、表出化(Externalization:暗黙知から形式知へ、言語化・文書化)、連結化(Combination:形式知から形式知へ、体系化)、内面化(Internalization:形式知から暗黙知へ、実践による体得)の順です。
「暗黙知」は言葉にしにくい経験的な知識、「形式知」は文書や図で表現された知識です。表出化と内面化は向きが逆なので、ここを入れ替えた選択肢が定番の引っかけになります。
そのほか、蓄積した情報を活用する仕組みも同じ文脈で問われます。BI(Business Intelligence:蓄積データを分析して意思決定に活かす)、データマイニング(大量データから規則性や相関を見つける)、データウェアハウス(分析用に時系列で蓄積したデータの保管庫)も、名前と役割の対応で押さえておきます。
ビジネスインダストリ:電子商取引とIoT・AI活用
ストラテジ系のもう1つの出題源が、ビジネスインダストリです。ここも用語識別が中心です。
電子商取引はアルファベットの意味で分ける
電子商取引の分類は、取引の当事者を表しています。
- BtoB(Business to Business):企業間取引。電子調達、EDIによる受発注など
- BtoC(Business to Consumer):企業対消費者。ネット通販、オンラインサービス
- CtoC(Consumer to Consumer):消費者間取引。ネットオークション、フリマアプリ
- BtoE(Business to Employee):企業対従業員。社内向け福利厚生サービスなど
- BtoG(Business to Government):企業対行政。電子入札、電子申請など
EDI(Electronic Data Interchange)は、企業間で取引データを標準化された形式でやり取りする仕組みです。標準化の対象が情報伝達規約・情報表現規約・業務運用規約・取引基本規約という4階層に整理される点も、過去に問われています。
CtoCでは、取引の安全性を担保する仕組みとしてエスクロー(第三者が代金を一時預かり、商品の受け渡し確認後に売り手へ支払う)が出ます。見知らぬ相手同士の取引で、どちらが先に履行するかという問題を第三者の介在で解く仕組みです。
ロングテールとネット時代の販売用語
ロングテールは、販売機会の少ない多数の商品の売上合計が、少数のヒット商品の売上に匹敵する現象です。実店舗では陳列棚の制約から売れ筋に絞らざるを得ませんが、電子商取引では在庫と陳列のコストが低いため、この「長い尾」の部分を収益化できます。「少数のヒット商品に絞り込む戦略」という説明は真逆なので、選択肢に出たら誤りです。
あわせて次の用語も頻出です。
- アフィリエイト:他サイトに広告を掲載し、成果に応じて報酬を支払う仕組み
- O2O(Online to Offline):ネット上の施策から実店舗への来店を促す
- オムニチャネル:店舗・EC・アプリなど複数の販売経路を統合し、どこからでも同じ体験を提供する
- レコメンデーション:購買履歴や閲覧履歴から個々の顧客に商品を推奨する
- フィンテック:金融と技術を組み合わせた新しい金融サービス
IoT・AI活用の頻出用語
近年のストラテジ系では、IoTとAIの応用が確実に出ます。用語の粒度が粗いので、定義文を一行で持っておけば足ります。
- IoT(Internet of Things):さまざまな機器がネットワークに接続され、データを収集・活用する仕組み
- CPS(Cyber Physical System):現実世界のデータを収集して仮想空間で分析し、その結果を現実世界にフィードバックする仕組み
- デジタルツイン:現実の設備や製品を仮想空間上に再現し、シミュレーションによって挙動を予測する
- エッジコンピューティング:端末に近い場所で処理を行い、遅延と通信量を削減する
- RPA(Robotic Process Automation):定型的な事務作業をソフトウェアのロボットで自動化する
- DX(デジタルトランスフォーメーション):デジタル技術によって製品・サービス・ビジネスモデルそのものを変革する
- マスカスタマイゼーション:大量生産の効率を保ちながら、個々の顧客の要求に合わせた製品を提供する
引っかけの定番は、デジタルツインとシミュレーションの一般的な説明のすり替え、そしてRPAとAIの混同です。RPAはあくまで手順が決まった作業の自動化であり、判断そのものを学習するわけではない、という線引きで区別します。
SC試験の観点では、IoT機器は初期パスワードのまま運用されやすい、ファームウェア更新の仕組みが弱い、設置後に長期間放置されるといった弱点があり、午後のシナリオでも頻出します。ストラテジ系で覚えた用語がそのまま午後の題材になる分野です。
午前1で狙われる混同ペア総まとめ
この分野の得点源は、似た用語の区別です。過去に繰り返し狙われてきた混同を、誤りの形と正しい形で対にして整理します。
| 誤りの表現(選択肢に出る形) | 正しい表現・考え方 |
|---|---|
| SWOTの機会・脅威は内部環境の分析 | 機会・脅威は外部環境。内部環境は強み・弱み |
| PPMの花形は資金の供給源になる | 供給源は金のなる木。花形は成長維持の投資も大きい |
| PPMの問題児は撤退すべき事業 | 撤退候補は負け犬。問題児は投資して花形を狙う判断対象 |
| 成長マトリクスの市場開拓は新製品を出すこと | 新製品は新製品開発。市場開拓は既存製品を新市場へ |
| 4Cは製品・価格・流通・販売促進である | それは4P(売り手視点)。4Cは買い手視点 |
| セグメンテーションは狙う市場を選ぶこと | 選ぶのはターゲティング。細分化がセグメンテーション |
| スキミングプライシングは低価格でシェアを取る | 低価格はペネトレーションプライシング。スキミングは高価格で早期回収 |
| KPIは最終的な目標の達成度を測る | 最終目標はKGI。KPIは途中経過を測る中間指標 |
| BSCの4視点は財務が起点で他に波及する | 因果連鎖は学習と成長→業務プロセス→顧客→財務 |
| バリューチェーンの技術開発は主活動 | 技術開発は支援活動。主活動は購買物流から販売・サービスまで |
| CRMは営業担当者の日報や商談進捗を管理する | それはSFA。CRMは顧客との関係全体を管理する |
| ERPは企業をまたいだ供給の流れを最適化する | それはSCM。ERPは社内の経営資源の統合管理 |
| SECIモデルの表出化は形式知を暗黙知にする | 向きが逆。表出化は暗黙知から形式知、内面化がその逆 |
| ブルーオーシャン戦略は価格競争で優位に立つ | 価格競争はレッドオーシャン。競争のない市場の創造がブルーオーシャン |
| ロングテールは少数のヒット商品に集中する戦略 | 逆。売れ筋以外の多数の商品の売上合計に着目する |
| ファブレスは他社から受託して製造に専念する | それはファウンドリ。ファブレスは生産設備を持たない |
| BPRは既存プロセスを継続的に少しずつ改善する | 継続的改善はBPM。BPRは抜本的な再設計(BPR・BPMの詳細は第13回で扱います) |
| ブルウィップ効果は上流の変動が下流で増幅される | 向きが逆。下流(消費者)の変動が上流で増幅される |
この表は、そのまま選択肢の切り捨て基準として使えます。試験本番では、用語と説明文の組み合わせを見た瞬間に「向きが逆ではないか」「これは隣の用語の説明ではないか」を疑ってください。
SC試験での出題パターンと対策
最後に、SC試験の中でこの分野がどう出るかを整理します。
午前1で繰り返される3つの型
型1:用語と説明文の対応を問う問題。 「コアコンピタンスの説明はどれか」「ブルーオーシャン戦略に該当するものはどれか」という、最も素直な形です。選択肢には必ず隣接する用語の説明が混ざります。混同ペアの表を持っていれば即答できます。
型2:分類の当てはめ問題。 「PPMで問題児に該当するものはどれか」「バリューチェーンの支援活動はどれか」「成長マトリクスの多角化に当たるものはどれか」という形です。分類の軸(2軸4象限、主活動と支援活動)を図として頭に入れておけば、機械的に判定できます。
型3:事例から手法を選ぶ問題。 「顧客ごとの購買履歴を分析し、個別の提案を行いたい。適切なシステムはどれか」といった形で、具体的な業務シーンから正しい略語を選ばせます。「誰の何を管理するか」の軸で絞り込みます。
この3型を押さえておけば、経営戦略で出る問題はほぼ回収できます。計算問題が出た場合は深追いせず、次の問題に進む判断で構いません。
午前2・午後との接続
経営戦略で身につけた枠組みは、SC試験本体でそのまま使えます。
セキュリティ投資の説明で使います。 午後の設問では、対策の実施可否を経営層に説明する場面が描かれることがあります。「なぜその対策が必要か」を、事業への影響(財務の視点)、顧客からの信頼(顧客の視点)、業務の停止時間(業務プロセスの視点)で語れるかどうかは、BSCの発想そのものです。事業継続の観点は「BCPとDR(災害復旧)の違いとは?目的・範囲・復旧目標で徹底比較」でも整理しています。
サプライチェーンのリスクとして問われます。 SCMで学ぶ「企業をまたいだ供給の流れ」は、そのまま委託先管理・サプライチェーン攻撃の議論につながります。委託先のアカウント管理や契約上のセキュリティ要件は、午後で繰り返し登場する論点です。関連する統制の考え方は前回の「システム監査を攻略!内部統制・監査手続・システム管理基準の頻出パターン完全ガイド」にまとめています。
CRMやERPは「守るべき情報資産」として登場します。 顧客情報を一元管理するということは、そこが漏えいしたときの影響が最大化されるということでもあります。アクセス権限の設計、退職者アカウントの停止、特権IDの管理といった論点は「【内部不正対策】退職者による情報漏えいを防ぐ特権ID管理とログ監査の実践ガイド」で扱っています。
つまり午前1の経営戦略は、暗記科目でありながら、午後で「経営に説明する言葉」を手に入れる分野でもあります。1問のために覚えるのではなく、後で使う語彙を先に仕込むと考えれば、学習の費用対効果はさらに上がります。
【演習】経営戦略の頻出パターン理解度チェック(全10問)
午前1の経営戦略は、用語と説明文の対応、および2軸4象限への当てはめが出題の中心です。定番の引っかけは、SWOTの内部と外部の取り違え、PPMで花形と金のなる木のどちらが資金源かの混同、KGIとKPIの入れ替え、CRMとSFAの守備範囲の取り違え、そしてSECIモデルの表出化と内面化のように「向きが逆」の選択肢です。以下の練習問題で本記事の理解度を確認してみましょう。
まとめ:経営の言葉を持つと、技術の提案は通りやすくなる
午前1の経営戦略は、覚える軸が少ない分野です。SWOTは内部と外部、PPMは成長率と占有率、4Pと4Cは売り手と買い手、KGIとKPIはゴールと途中経過、CRMとSFAとSCMとERPは「誰の何を管理するか」。この5本の軸と、混同ペアの表があれば、出題の大半に手が届きます。計算に時間を取られる分野ではないので、テクノロジ系の学習で疲れた日の穴埋めに向いています。
筆者が受託側から発注側に移ったとき、最初に苦労したのは技術の話ではなく、投資の説明でした。「このセキュリティ対策は必要です」と言っても、経営会議では止まります。ところが、対策をしなかった場合に失う顧客の信頼と、対応にかかる工数を業務プロセスの停止時間として並べると、議論が前に進みます。BSCの4視点も、CSFとKPIの階層も、要はそのための翻訳装置です。試験のために覚えたつもりの用語が、現場では最も実用的な道具になります。
この分野を「経営の人の話」だと思って飛ばすと、午前1で複数問を失うだけでなく、午後で経営層への説明を問われたときに手が止まります。用語の輪郭を正確に持つこと。それだけで、点も、現場での説明力も同時に手に入ります。
次回、第12回は技術戦略マネジメントを扱います。MOT、技術のSカーブ、キャズム、デファクトスタンダードなど、出題数は少ないながら毎回のように顔を出す用語を、暗記コスト最小で整理します。
本記事は情報処理安全確保支援士(SC)試験対策を目的として作成しています。
参考資料
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